Side.3

数日後,マリィがそれを知ったのは,飛行場で働く若い整備士達の会話を立ち聞きしてだった。
ジェームスは,彼女の夫はそれを彼女には教えてくれなかったのだ。

「ラットな,死んだってよ」
「死んだ?・・・・そうか,やっぱりなぁ」
「海岸にな,バラバラの機体とちぎれた手首が流れ着いてたんだってよ」
「何でそれでラットだって分かるんだよ?」
「指にな,女からもらった指輪がついてたんだってよ。機体の色はヘルミーネだったって言うし・・・・」

仲間だった男が死んだというのに,何故他人事のように話せるのか?
明日は自分がそうなるかもしれないというのに。
マリィには,男達の気持ちが理解できなかったし,分かりたいとも思わなかった。

ベインの部屋へ行くと,エミリーが部屋から出てきたところだった。
まるで何事もなかったかのような振る舞いで。
ラットが死んだというのに,何故もそう平静でいられるのか?
あの時の涙は嘘だったとでもいうのだろうか?
視線もくれずにマリィの横をすり抜けようとするエミリーの腕をつかんで呼び止める。
振りほどこうとするわけでもなく,エミリーはマリィを見つめた。
長く蒼い髪が流れる。
「これからどうするの,エミリーさん」
エミリーは,マリィの瞳をまっすぐに見つめたまま答えた。
その瞳には,まるで感情が無いようだった。
「分からないわ。・・・・・・でもね,私は女だから,いつかラットを愛したということを忘れて,他の誰かの子供を産んで,生きていくのかもしれない」
「!?そんなことを!」
「でもね・・・・あの人が私を思って逝ったことを知っているから,私はラットのことを忘れない!」
マリィは,エミリーの言う言葉の意味が理解できなかった。
だから怒った。
それが好きな男を失った女の言う言葉だろうか,と。
「私は・・・・!」
「マリィさん!」
「え・・・・?」
マリィを見つめるエミリーの瞳が哀しみに満ちているようだった。
「だから・・・・あなただけには,幸せになって欲しい」
その時,マリィは初めてエミリーの頬を涙がつたっていくのを見た。


ラット=ビアンカ,エミリー=フォーカス・・・・・・何故にそのように生きられるのか?
そんな考え方,生き方・・・・愛し方。
マリィには認められなかった。


あなたの苦しさを 私だけに
伝えていって欲しい・・・・・・
忘れない
自分のためだけに 生きられなかった 寂しい人
私が あなたと知り合えたことを
私が あなたを愛してたことを
死ぬまで 誇りにしたいから・・・・・・

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