Side.3
その帰り道,トミィは行方が分からなくなった。
帰っては来なかった。
”帰ってこない”
それが一人の死を意味することは,マリィにはよく分かっていた。
ラットも,そして,ジェームスもそうだった。
それはとても悲しいことだと分かっていながら,それでも男達は翔ぶことをやめはしないのだろう。
マリィはそう思った。
だが,
「奴は死んじゃいねぇよ。そのうちひょっこり帰ってくるよ」
そんなヒューイの言葉に妙に納得するのだった。
「そうね,だってトミィですものね?」
茶渋でさらに汚れたカップを口にする。
その湯気の向こうでは,ベインが目を閉じながら,やはり汚れたカップを口にしていた。
「そうだな・・・・・・」
そう一言言うと,ベインはカップを置いた。
外では若い整備士やパイロット達が,忙しそうに走り回りながらも,時々笑い声をあげていた。
”もう,ここは私の知っている場所ではなくなったのね・・・・?”
ふと寂しく感じて窓へ目をやると,遠くの山の上をシルフの影が過ぎるのが見えた。
激しく生き抜く 根性もなく
孤独に死んでく 勇気も無しに
流れ 流れて
流れ 流れて
今日まで生きてきた
いつか,どこかの場所で・・・・・・
遙か空の上を重い音をたてながら飛んでいくものを少年が見上げていた。
「荒鷲のじいさん,飛行機だ!」
少年は,傍らの切り株に腰を下ろした老人に声を掛けた。
荒鷲と呼ばれた隻眼,義足の老人は,少年の指さす天空を見上げた。
大きな双発の飛行機が見える。
「人は,土の上に足をおろしてしか生きていけないと言った奴がいたが・・・・・・」
独り言のように老人は呟いた。
少年は既に飛行機を追って丘を駆け上っていた。
”彼も,いつか翔んで行くのだろうな?”
まるで夢を追いかけているような少年の背中を目で追いながら,
「人は,何処まで翔んでいけるのだろうか?」
そんなことを思った。