Tommy-L-Lieder (トミィ L リィダー)
 #2.俺は運命を信じない

激しく生き抜く 根性もなく
孤独に死んでく 勇気も無しに・・・・・・

Side.1

「空を飛ぶのは気持ちいいことだと思うよ」
「けど・・・・所詮,人は鳥にはなれない」
「結局人は,土の上に足をおろして生きていくことしかできない」
ガスト=ケイプのそんな言葉に納得しながらも,今日も空を見上げる。
今日の空も,あの日と同じ青空だった。
・・・・・・事故を起こしたあの日と同じ空。
”それでも俺は空を翔びたいと思う”
自分の整備した飛行機が,次々と飛び立っていくのを見て,トミィはそう思った。

事故で右目を失い,飛行機に乗ることができなくなったトミィは,マック=ベインの飛行場で,ガストと同じ整備士として働き始めた。
翔ぶことのできなくなった自分に,どんな価値があるというのだろうか?
何をするために生きているのだろうか?
・・・・だが,自分は今日も生きている。
ただ流されるままに。
何故?
ジェームスやアレンビー達と熱く生きていた自分は何処へ行ったのだろうか?

重いエンジン音を響かせて,また飛行機が一機飛び立っていった。
ジェームスもアレンビーも,今はもういない。
自分一人だけが取り残されたような気がする。
「・・・・・・は,はは,
おかしくもないのに,笑いが口から漏れる。
”俺は,寂しいのか?・・・・この俺が?”
考えてみれば,自分と同じ頃にここへやってきた奴らはもう殆ど残ってはいない。
ヒューイ=ファードックは相変わらずパイロットを続けているが,最近では新人共の育成に余念がない。
ゆっくりと話をする時間もない。
ガストは同じ整備士でありながら,相変わらず神出鬼没で何を考えているのか分からない。
”結局,人は独りか・・・・”
その思いはとても辛かった。

病院のベッドの上で,あの事故で右目を失ったことを知らされたあの日。
去年の飛行機競技会で,ライバルのジム=フィシャーに負けたあの日。
ジェームスと殴り合いをしながら,自分の生き方に嫌気がさしたあの日。
自分の父親を廃人に追い込んだあの日。
大好きな姉が自ら命を絶ったあの日。
今まで生きてきて,辛いことは沢山あった。
だが,こうして空を飛べないことが,これほど辛いことだとは思わなかった。
ただ生きていくだけの人生ならば,こんなに辛い思いをせずに済んだだろうに。
これが運命だというのか?
だとしたら,何のために俺は生きているのか?
俺の生きる価値は何なんだ?
アレンビーはドーバー海峡横断郵便飛行機のパイロットになるという夢を果たせずに逝った。
ラットは自分の生きる場所も意味も見いだせないままに逝った。
そして,ジェームスは自分の翼で飛ぶ夢を果たせぬままに逝ってしまった。
・・・・・・何故?


トミィは格納庫に残された飛行機を前にしていた。
ジェームスが自分で設計し,飛ばすはずだった機体。
”いつか自分の翼で”
それが奴の口癖だった。
「寂しいんだろ・・・・?」
突然トミィの背中に声が当てられた。
ガスト=ケイプだ。
相変わらず神出鬼没な奴だ。
「寂しくて,いらついて,どうしようもないんだろ?」
「ガスト,そんな暗がりの中で藁にまみれて言ったって,様にならねえぞ」
「お前には分からないんだよ。ここで寝てると気持ちいいんだよ」
「は・・・・・・分かりたくもねえな。牛や馬じゃあるまいし」
ガストは体のあちこちに付いた藁くずを落としながら立ち上がった。
「みんな,いなくなっちまったなあ」
「・・・・・・!」
「プライドの高いお前だからな。地面に這いつくばって生きるのが耐えられないんだろ?」
「・・・・・・・・」
「かといって,現状から逃れるための術も分からない・・・・・・だろ?」
「・・・・・・は,お前はホントに不思議な奴だな。そうだなぁ,どうしていいのか,迷っている」
「ホントか?」
「いや・・・・違うな。そうだな,お前の言うとおり,どうしようもなく寂しい」
本当に不思議な奴だ。こいつの前にいると,不思議と自分に正直になれる。
不思議と心が落ち着く。
「お前には何もかもお見通しなんだな・・・・・・?」
「だったら突っ張らずに,普通にしてればいいんだよ」
「普通?」
「そうだよ。寂しいなら寂しい,どうしていいのか分からなければ,困った顔したらいいじゃないか?無理して感情を隠さずに,素直になればいいじゃないか。無理したってつまらないじゃないか?」
「つまらない・・・・・・か?」
「人生がつまらないなら,自分で面白くしなきゃな」
「ガスト・・・・お前には悩みはねえのか?」
「う〜ん・・・・ないな!今まで深く悩んだこととかないから」
「幸せな奴だな?」
「だろ?普通にしてれば何とかなるもんよ。普通にしてれば,誰かが見ててくれるからな」
「誰かが・・・・?」
「そうだよ。俺は寂しいんだ。悩んでいるんだ。誰か助けてくれよ,って素直に出せばいいんだよ」
「だから藁束の中で寝る・・・・か?」
「そうだよ」
トミィとガストは目を合わせ,心の中で大声をあげて笑いあった。
「俺もお前を見習って,仕事さぼって藁男になるかなぁ!?」