James-T-Hudson (ジェームス T ハドソン)
 #1.いた風の中で
                       
乾いた風の吹く中で,終わりのない迷路を駆け抜ける・・・・・・。


「いつになったら終わるのだろうか?」
ジェームスは地面の上に転がったまま,空を見つめてそんな思いに絡れていた。
「俺は一体ここで何をしているんだろう?何のために生まれてきたんだろう?」
いつの頃からか,涙も流れなくなっていた。あるのはただ虚しい想いだけ・・・・・・。
どれぐらい時間が過ぎたのだろうか。ジェームスは夕刻までに終わらせなければならない仕事を思い出して,起きあがった。
体のあちこちがきしむ。
「うまいこと殴りやがって・・・・・」
いっそ腕の一本でも折ってくれれば,しばらく奴の顔を見ずにすむのに。
ジェームスは奴の・・・・トミィの顔を思い出す度に,激しい嫌悪感を覚えた。

そして今日も・・・・・・。
「ジム,俺のエンジン診てくれって言ったはずだよな?」
格納庫の中で飛行機を整備していたジェームスに嫌味な声が掛かる。今日のきっかけを作る役はアレンビー=アレンだ。
(いつの話だよ,それは来週までのことだろ!)
何を言っても無駄だろう。そう思って言葉を飲み込む。
「話しかけてんのに,無視するんじゃねぇよ!」
背中を見せてボルトを止めにかかっていたジェームスの足が払われる。・・・・・・トミィだ。
バランスを崩してトミィ達の足元に無様に転がってしまった。
しりもちをついたままの格好でジェームスはトミィ達を見上げた。トミィ,アレンビー,ケネス・・・・・・またこいつらか?
1人では何もできないくせに,吊るんでなければ人を殴ることもできないくせに。
「何だよ,俺が何したって言うんだよ?」
ジェームスの目にトミィ達を見下す様な光が見えた。トミィはそれを見逃さなかった。
「ジェームス,てめぇ。俺達を馬鹿にするんじゃねぇぞ!」
トミィの蹴りがジェームスの脇腹に入った。
「・・・・・がっ!!」
ジェームスは脇腹を押さえたまま転がった。
痛みに怒りを覚えたジェームスは,すぐに立ち上がりトミィに向かって拳を振り上げた。
「このぉっ!」
しかし,トミィの方が一瞬早かった。ジェームスの鼻先にトミィの拳が横から入った。
よろよろとジェームスは後ろによろける。その横からアレンビーがジェームスの体をトミィの方へ押しやった。
「調子こいてんじゃねぇ!」
再びトミィの拳が入る。
ジェームスの体は先程までジェームスが整備していた飛行機の車軸に当たって止まった。
トミィの顔を見上げる。怒りに満ちた表情だ。
(何故だ?何故奴はこうも俺を憎むんだ?)
手の甲で熱くなった口元を拭う。血の味がした。見ると手の甲の体毛にべっとりと血が付いていた。
今までに何度も何度も繰り返し行われてきた日常。
ジェームスは怒りと哀しさと虚しさでトミィの顔を見ることができなくなっていた。視線が定まらない。
「トミィ・・・・どうしてお前は俺のことを・・・・・・」
繰り返し出される問い。そして繰り返し耳につく同じ答え。・・・・・・てめぇが気に入らねぇからだよ・・・・・・。
しかし,今日の答えはいつもと違っていた。
激しく肩で息をしているトミィは,正気を失っているかのようだった。彼の視線も空を舞っていた。
「気に入らねぇ。俺は貴様が気に入らねぇ!」
怒りが一気に吹き出す。

「何でお前は俺の目の前にいるんだっ?俺はてめぇを許さねぇ!・・・・・・雑種のくせに,俺は,許さねぇっ!」
    
乾いた風の中,終わりのない迷路を駆け抜ける・・・・・・。


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